WANDS 3rdアルバム
1993年10月6日 リリース
『Little Bit…』
収録曲
01 天使になんてなれなかった
02 恋せよ乙女
03 DON'T CRY
04 君にもどれない
05 声にならないほどに愛しい
06 Little Bit…
07 愛を語るより口づけをかわそう
概要と感想
WANDS3枚目のアルバム。曲数としてはミニアルバムに該当しそうだが、公式では3rdアルバムとしている。
前作から僅か半年という短さでのリリースとなった。
1993年のWANDSはとにかくフル稼働しており、2月に『時の扉(シングル)』を発売。4月に『時の扉(アルバム)』『愛を語るより口づけをかわそう』を同時発売。6月に『果てしない夢を』に参加。7月に『恋せよ乙女』発売。
そして10月に『Little Bit…』発売。で、終わるかと思いきや11月に『Jumpin' Jack Boy』発売。12月にはライブ『VIDEO SHOOTING』を渋谷 ON AIR EASTで開催。
と、ハイペースに活動していた。
その一環としてリリースされた3rdアルバム。
ネット上では柴崎浩が腱鞘炎になり、「恋せよ乙女 -Remix-」などが間に合わず、ミニアルバムという形になった、という通説があるが、ライナーノーツ類にはそういった記述がなく、筆者はソース元を確認できなかった。当時のインタビュー等で語られていたのだろうか。
筆者が調べると、WANDS出演のラジオ番組を書き起こした(とみられる)サイトにて、柴崎さんが「腱鞘炎になりかけた」と発言しているようだが・・・。
M02・M05・M07とシングル曲及びカップリング曲では従来のWANDSサウンドが聴こえるが、それ以外のアルバム曲は従来とは違った独自のWANDSサウンドが聞こえ始めてくる作品に。
前作では編曲WANDSの文字があった一方で今作はアレンジを明石昌夫(M05のみ)、葉山たけしの2人が参加しているとはいえ、サウンドが大きく変貌していった1枚。
このサウンドの変貌にはSound producer by WANDSの影響も大いにあるのかもしれない。
実際、M01を再生した段階で、今までとは違った空気を感じると思う。
このサウンドの変化にはWANDSの意思、Beingの意思、というよりはデビューの時から自分のロックを表現したかった上杉さん自身の意思が強かった結果なのでは、と勝手に推測しているが、ハイペースに作品をリリースし、わずか半年でここまで変わっていく、というのを体験すると、第二期WANDSの歴史ってアルバムの数が少ないながら濃かったんだな、と。
次のシングル『Jumpin' Jack Boy』や『世界が終わるまでは・・・』とキーボード+ギター+Being流打ち込みロックサウンドは継続されたものの、直後にハードロック・グランジ路線に走るので、良くも悪くもWANDS第一期から続いたキーボード+ギター+Being流打ち込みロックサウンド、そしてダンサンブルロック路線に終止符が打たれたアルバムでもある。
『Secret Night 〜It's My Treat〜』からはギターもキーボードも、求められるサウンドが今までと違っていく。
『Little Bit…』やその後のシングル2曲や『白く染まれ』を聴いても、期待できるサウンドの進化があったのは確かであり、せめてもう1枚ぐらいは上杉&柴崎&木村によるキーボード+ギター+Being流打ち込みロックサウンド路線を聴いてみたかった、というのは贅沢な悩みか。せめて、半年ではなく1年、熟してフルアルバムを制作していたら、どうなったのか・・・。
正に過度期のアルバム。
なお、ZYYG『君が欲しくてたまらない』のセルフカバーバージョンを本作に収録するか議論されたが、お蔵入りになったことが『complete of WANDS at the BEING studio』のライナーノーツで明かされている。
Pickup Songs
01 天使になんてなれなかった
+6としてベストアルバムに収録された他、『vocal compilation 90's hits Vol.1 〜male〜 at the BEING studio』にも収録されたアルバム曲。
キーボードとギターが中心でダンスビートを刻んだ曲ではあるが、ギターはハードになり、キーボードも派手ながらヒヤリとした冷たさを兼ね備えた音で、過度期を感じさせる1曲。
後の『白く染まれ』のようなダークな雰囲気があり、生音重視のサウンドに走らず、従来のWANDSサウンドを磨いていくと、こういったサウンドの曲が増えたのかな、と感じさせる。
歌詞は荒廃的でかつアウトロー。
「天使になんてなれなかった ボクの中の歪んだ心
天使のように はばたいて はるか 遠くきえてなくなれ 未来を うつした空へ」
と嘆き、決別していこうとする歌詞は上杉さん自身を反映させていたのだろうか。
ちなみに、柴崎浩作曲だが、この曲の元ネタはTOTO「Girl Goodbye」だろうか。
ギターリフは間違いなくこの曲が元ネタだと思う(iTunesの視聴じゃ分かりにくいのでサブスクなりで聴いてみてください)。
02 恋せよ乙女
曲の感想はシングル感想を参照。
03 DON'T CRY
川島だりあ作曲ソング。
ナイフ一つですべてを失ったアイツへ送る鎮魂歌のような曲で、川島だりあのリリカルなメロディーとエモーショナルに歌いあげる上杉さんのボーカルがマッチしたパワーバラード。
自らの意思で命を絶ったアイツに捧ぐ、といった内容の歌詞だが、とても良い。
特に2番の詞の構成が秀逸。
「寂しげな 瞳(め)を してたね孤独から のがれたかった
いつも不器用すぎた アイツは自分を見失い そしてナイフ一つで すべて 失った」
と1番の歌詞に至った理由が判明して、サビで
「どうしてだろう 悲しみの意味だけを探して」
「輝けるさ 何かを愛せるのならば」
と力強く歌いあげる様は圧巻で上杉さんの魂を感じさせる。
「夜明けはくる そのキズを 偽りを 抱くように」
「月日(とき)はめぐる すべての痛み ぬぐうように だから 笑って… DON'T WORRY &“DON'T YOU CRY"」
とセンセーショナルにアイツに届けたかった想いを書き綴った歌詞は無常で哀愁を感じるのと同時に、言葉と声が持つ力を大いに感じる。
また、アルバム曲ながらPVが制作されているが、『世界が終わるまでは・・・』と連動したPVになっており、『世界が終わるまでは・・・』でチラホラ映る外国人の方は『DON'T CRY』の主人公(な役割の人)である。
上杉さんがTVで海外ドラマ(もしくは映画)を見て、苦悩する外国人の姿を見た後に座っていたソファーのクッションをTVに投げつけ、羽田空港の格納庫へ向かい、『世界が終わるまでは・・・』冒頭に、という流れだが、なんか、歌の内容と合ってなくね?というのが正直なところ。
『DON'T CRY』と『世界が終わるまでは・・・』の歌詞を読んでいても繋がっているようには思えないし、どういう意図で繋げたんだろう。
05 声にならないほどに愛しい
曲の感想はシングル感想を参照。
表記無しだが、ギターの演奏が異なっている。また、大黒摩季のコーラスが追加された。
『時の扉』のカップリング曲で、前作には未収録だったが、今作に若干の変化をもたせて収録という形になっている。WANDS的に引っ張ってくるほどの自信作だったのだろうか。それとも会社の方針?ライナーノーツには「上杉が作詞を担当したことから収録されることに(要約)」とあるが。
大黒摩季のコーラスはパワフルで、このバージョンが完全形態って感じがするが、ベストアルバムにはシングルバージョンしか収録されず、せっかくの大黒摩季コーラスが・・・と毎回思う。
06 Little Bit…
キーボードを主体としたバラードソングでタイトルチューン。
上杉昇持ち前の伸びやかで艶のあるボーカルが光る1曲。キーボードの煌びやかも良いが、オトナの雰囲気を醸し出すギターも心地よい。歌詞も濃厚でメルティーである。
「ありふれた言葉で」と違い、おとなしめの演奏ではあるが、逆にボーカルの良さを際立たせている。
ただ、織田哲郎作曲によるノリの良い王道Beingアップテンポソングに挟まれているので、一聴すると地味になってしまう(埋もれてしまう)ような。せめてM04とM05を逆にするとか、アルバムのラストに配置してもよかったのではないか。
アウトロはフェードアウトしてカモメ(?)や波の音が聴こえるなど、一つの終わりって感じがする演出だし。
美メロで高音の伸びやかなサビは和久二郎が歌っても似合いそうだと思う。
07 愛を語るより口づけをかわそう
曲の感想はシングル感想を参照。