WANDS 9thシングル
1995年2月13日 リリース
概要
WANDS9枚目のシングル。
旧WANDS公式サイトにて「WANDSのロックサウンド路線の実験的な作品」と評された、WANDSハードロック・グランジロック路線の幕開けといえるような1曲。
某動画サイトにてこの曲のCMを視聴できるが、告知の段階ではジャケットデザインが違っていたようで、黄色い背景にメンバー3人が並んで写っているものだった(このデザインが表示されるCMはミックスも違っている他、「It's My Treat」の副題も無い)。
が、その後、発売されたデザイン(上杉さんの目元が写っているもの)に変更。CM中に流れる音源もCD化されたミックスが流されている。
裏ジャケットは「世界が終わるまでは・・・」のPVで使用されていた格納庫のデザイン。
PV(MV)も複数制作されており、なぜにこの曲だけデザインというかプロモーションビデオがアレコレしてたのだろうか(ただし、上杉さんの自伝ではプロモーションにこだわった、と記述されている)
地味に(現状)最後のWANDSシングルオリコン1位作品。5期によるシングルオリコン1位は達成できるのだろうか。
01 Secret Night 〜It's My Treat〜
栗林誠一郎作曲。編曲は池田大介(WANDSでの編曲は初)。
曲の感想の前に、まずこの曲の歴史や作品化の背景をまとめようと思う。
そもそもこの曲は半ばカバーな楽曲であり、オリジナルは作曲者であり英作詞のクレジットもある栗林誠一郎「It's My Treat」。
この「It's My Treat」は『PLAYERS POLE POSITION Vol.1「ツアー・サポートの剛者たち」』(89年3月21日リリース)に収録されたのが最初。
ベーシスト、渚のオールスターズではボーカルも披露していた栗林さんのソロ(栗林誠一郎名義)として初めて収録された1曲で(『PLAYERS POLE POSITION Vol.1』では松本孝弘がギターで参加。栗林ソロは他にも「Wait Forever」が収録されている)その後、栗林誠一郎2ndアルバム『Summer Illusion』(90年5月21日)においてもアレンジを変更されて収録されている。
でもって、なぜ栗林ソロ曲をWANDSがカバーする流れとなったのか。
『complete of WANDS at the BEING studio』のライナーノーツでは「上杉が気に入り、作品化することに」とある一方で『BEST OF BEST 1000』では「長戸が気に入り作品化」と作品化する過程に齟齬が生じていたが、2016年のネットインタビューにて「これだ!と思ってプロデューサーに直談判した(要約)」と語っている。
さらに、自伝において上杉さんが気に入ったこと、カバーに難色を示した栗林さんに対し、長門プロデューサーが交渉してくれたことが書かれている。結果「It's My Treat」を副題として入れることで了解を得てWANDSとしてアレンジしカバーする流れとなったようだ。
ただ、申し訳程度に英作詞のクレジット及び「It's My Treat」の副題があるものの、栗林ソロのカバーと大々的にアピールされていたわけでもないだろうし、栗林さん的にはそういう扱いをどう感じていたのだろう。ZARD「君がいない」もそうだが。
ベーシストとドラマーを招いた、従来とは違い生の音にこだわったハード・グランジ路線の最初の1曲で上杉昇が表現したかったこと、やりたかったことを追求し始めた1曲。
WANDSによるカバーはどちらかというと『PLAYERS POLE POSITION Vol.1』のバージョン寄りで、それをもう少し激しめにしている。
今までのシングルとは一線を画すダークな印象が漂うAメロに激しめなサビが特徴的。
Aメロ・Bメロの低いボーカルから一気にサビで爆発させる展開が最高。
そもそも栗林ソロの時点で普段の彼のソロ曲としてはキーが低かったが、上杉さんのボーカルで歌うと伸びがあるから一層、爆発力を感じる。
生音重視になったことでサウンドも一気に変わり、ビーイングっぽくない部分もチラホラ感じさせる。
シングル的なポップ、キャッチーさと、売れ線度外視なハードロックさとが紙一重なメロディーで今までのサウンドと決別の意思を示す1曲として絶妙だった楽曲だったと思う。
自伝においてこの曲をチョイスした理由が深く書かれているが、それを読むと、なるほどな、と思惑通りな選択だったと感じる。
PV(MV)は複数種類あるが、フルバージョンのPVはニルヴァーナ「In Bloom (Official Music Video)」のパロディ。
パロディ大好きなBeingだが、「Secret Night 〜It's My Treat〜」PVのパロディは非常に完成度が高いのでWANDSファンなら見比べてを推奨する。
PVでまんまニルヴァーナのパロディする辺り、「やりたかった音楽をやる」という明確な意思表示だったのだろうか。
02 KEEP ON DREAM
柴崎浩作曲。
生音サウンドで制作された泣きのロックバラード。
路線としては「ありふれた言葉で」のような曲調だが、この曲もベーシストとドラマーを招いているだけあって印象はガラリと変わる。
特に青山純のドラムがガッシリと鳴り響いているのが特徴。ドラムが鳴りすぎていてキーボードが影に隠れてしまったようにも聴こえるが・・・。
A面はWANDSらしさを崩したような生音サウンドだったが、カップリングは従来のWANDSらしさを崩さずに生音サウンドをしてみました、って感じで歌詞にしろメロディーにしろ、結果的に唯一のポップな頃を思い出させる楽曲ではないだろうか。
サビの
「人は皆 悲しみの果てに 勇気と優しさを知る そして また 歩き出す
手探りで 瞳には写らない ゴール目指して KEEP ON DREAM」
って歌詞は素晴らしい。
「ありふれた言葉で」といい、こういった名ロックバラードをアルバム未収録にする辺りがニクイ、とも思える。
アルバム未収録のカップリング曲で名曲を一つ選べ、って言われたら、この曲をチョイスする人も多いのではないだろうか。スルーするには惜しい名曲。