WANDS 5thアルバム
1999年10月27日 リリース
『AWAKE』
収録曲
01 AWAKE
02 Brand New Love
03 雲が流れる方へ
04 With you 〜living in my heart〜
05 SILENCE
06 「今日、ナニカノハズミデ生きている」
07 BLACK or WHITE
08 Time washed away
09 明日もし君が壊れても
10 Still in love
11 Please tell me Jesus
12 錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう
13 Where there's a will…
概要と感想
WANDS5枚目のアルバム。
第三期WANDS唯一のアルバムであると同時にWANDS解体前の最後のアルバムとなった。
97年に『錆びついたマシンガンで今を打ち抜こう』をリリースし、3期WANDSがスタート。98年にシングルを2枚、99年にシングル1枚を発売し、同年に本アルバムもリリースされた。
3期WANDSとしてのシングル盤リリースから実に2年。WANDSのベスト盤を除くオリジナルアルバムとしては実に4年ぶりのリリースとなった。
今から10年程前、今よりもSNSが普及しておらず、個人サイトやブログが繁栄していた頃は『WANDS BEST 〜HISTORICAL BEST ALBUM〜』と並んで本作は当時の流れを汲むWANDSファンから酷評されていた1枚だが、時は経ち、個人サイトやブログが軒並みネットの海から消失し、ネット上の世代交代もあってか今では「以前は酷評されていたが後追い世代には評価の高い1枚」というフレーズが必ずと言っていいほど書かれている状態である。
筆者がネットに触れた頃は丁度、そういった3期WANDSに対するマイナス寄りのレビューサイトがまだ多くあった頃で、それらを読んでいたので聴く前から3期に対するイメージが悪かった、というのが正直な当時の印象だった。
しかし、『complete of WANDS at the BEING studio』(筆者がWANDS作品で3枚目に聞いたアルバム)の「錆びついた~」や「明日もし~」を聴き、3期WANDSに初めて触れたときに「ネット上で酷評されているけど、結構カッコいいんじゃないか?」と本作を購入しハマった記憶がある。
余談だが、その購入したタイミングで和久二郎が松元治郎として再始動し、1stアルバムを出していたことに辿り着いた。
当時のインタビューによればデモテープを100曲近く制作し、「メロディの良さ」で選んでいったとのこと。
WANDS初のミリオンヒットを記録した92年から約7年。
当初は大島こうすけによるダンサンブルなサウンドからBeingサウンドを土台としながらも自分たちのロックサウンドを模索した後、2期後半では上杉昇&柴崎浩両名によるハード・ロック、グランジ・ロックなサウンドが躊躇となるなどサウンドの変貌が激しいユニットであったが、本作においてはハード、そしてキャッチーなメロディが両立し、バランスの良いサウンドが特徴的。
「3人で出す初のアルバムということもあり、どうしても100%納得のいく、個々のベストを全て出し切ったものに仕上げたい。そんな思いを込めて“WANDSサウンド”をとことん突き詰めた作品。」
と旧公式にて紹介されているように、、今までの「WANDSサウンド」を凝縮し、新たな形で昇華させたサウンドといえるのではないだろうか。
ギター・キーボードという楽器編成を主軸に曲によっては打ち込み、生音と使い分けている点は正に今までの集大成な製作方法だと思うし、ストリングスやラップ、スクラッチ等を導入している点は新たな方向性だ。
結果的に上杉昇&柴崎浩両名の脱退劇に対する既存ファンのマイナスイメージが先行していたのか、99年という、音楽シーンの変化もあったのか、セールス的には成功しなかったアルバムではあるが、セールスという一つの指標で質の良し悪しを測りきれないようなサウンドが詰まったアルバムであるのは間違いない。
3期始動の際から木村さんは「WANDSらしさ」というものを言及していたが、その思いが詰まったアルバムであることは間違いないと思う。
WANDSとして聴くのではなく、別のバンドとして聴くべき、という評価は今も根強いが、筆者はむしろWANDSとして聴くべき作品だと感じる。
ハードさとメロディアスを兼ね備えたこのサウンドは紛れもない、今までの流れを汲んだWANDSサウンドだ。
上述しているように、本作をもって音源のリリースがストップし、2000年月に解体(解散)が発表された。
松元治郎(和久二郎)のFridayにおけるインタビューでは「その直後(15thシングルリリース)、『WANDS』は事務所から解体を言い渡される」と書かれているが、そうなると解体宣言まで1年開いており、どのタイミングで解体が決まっていたのかは正確には分からない。
15thが売れなかったのでその時点で解体が決まっていたのか、本アルバムの売り上げ結果も含め解体が決まる予定だったのか・・・。
松元治郎(和久二郎)は解体に際して「正直、すごくホッとしました。」と回顧している。
Pickup Songs
01 AWAKE
木村さん作詞、杉元さん作曲ソング。
オープニングナンバーにしてタイトルチューン。
3期WANDSシングルが3枚とも味の濃いようなダイナミックさがあったが、この曲はいい意味であっさりしており、適度にポップさとロックさが合わさったような印象。
アレンジは試行錯誤していたようで生音ドラムやポップ版などもあったようだ。
HRテイストなギターリフは杉元さんっぽさがあるし、打ち込みポップな感じは木村さんっぽさがある。トータルでロックと打ち込みポップのバランスが良い。
オープニングナンバーからシングル並みにキャッチーなメロディーでグッと引き込まれる。
あの娘(こ)に出て行かれた情けない男の目覚め(AWAKE)を歌った歌詞で
「押し寄せる闇を切り裂いて 新しい風に触れたい」
とある意味
「時の扉たたいて」
な意気込みだが最後には
「そうは思うけど ベッドの中から まだ抜け出せない But, I must awake」
となってしまうのがリアルというか、木村さんテイストなのかな、と思ったり。
02 Brand New Love
曲の感想はシングル感想を参照。
03 雲が流れる方へ
杉元一生作詞、杉元・木村共作での作曲ソング。
キーボードとギターの優しい旋律が全面に出たミディアムバラードソング。
こういう穏やかで優しい雰囲気が全面に出た楽曲ってWANDSでは珍しい気がする。
サビの優しく開放的なメロディーはシングルに匹敵するぐらいの美メロ。
アコースティックギターとキーボード(シンセかな)の共演も美しい。
「自分探し」をテーマにした楽曲。
本当の自分を探して、アレコレ試し、それに対して白か黒かで選んでいくよりも、その試していく中に本当の自分が隠れている、といったような、自身が描いた自分像と、それを取り除いた根本の自分とはなんなのか、自分探しの本質を突いたような歌詞は、聴くたびに深く、共感する。
歌詞の中で恋愛をゲームと例えているが、3期WANDSは「Soldier」でもゲームと例えている。
04 With you 〜living in my heart〜
木村さん作詞作曲ソング。
前の曲とは打って変わってダークで重苦しい雰囲気のある硬派なロックナンバー。
4曲目にしてベースとドラムを生音にしてバンドサウンドを展開。
冷たくハードなギター、ヘヴィなバンドサウンド。
「冷たい寝顔に花を添えながら 遠い記憶を思い出していた」
と亡くなった君を思いつつ前に進んでいこうという歌詞の雰囲気といい、このダークな感じは『PIECE OF MY SOUL』辺りのWANDSサウンドを引き継いだような印象を受ける。
特に間奏部分のヘヴィっぷりは2期の頃を彷彿させる。
控えめながらキーボード(シンセサイザー)も暴れており、この辺は木村さん作曲な部分もあるのだろうか。
アウトロのキーボード(オルガンかな)とギターのアルペジオによる共演、余韻が良い。
05 SILENCE
クールで機械的な打ち込みに沈み込むようなキーボードが印象的な打ち込みロック。
淡々と曲が進行していくものの、途中からダイナミックなサウンドになるなどライブで演奏したら栄えそうな1曲。
和久さんへのボーカルエフェクトも印象的。
「静寂に包まれた 琥珀色の部屋で」
という歌いだしはインパクトがある。
06 「今日、ナニカノハズミデ生きている」
曲の感想はシングル感想を参照。
前の曲から本曲という繋ぎが地味に秀逸だと思う。
07 BLACK or WHITE
打ち込みと跳ねたりカラフルなキーボードが印象的なダンサンブルなロックナンバー。
このダンサンブルな感じは大島こうすけテイストは違うものの、1期や「Just a Lonely Boy」辺りのWANDSを思い出させる。
青年がアイデンティティを確立し、社会人と成るための猶予期間(モラトリアム)について書かれている歌詞でM03同様、杉元一生の作詞力が光る。
M03といい、杉元さんはアイデンティティに対する哲学が強い人物なのかな、と思ったりする。
「逃げ込んだ“自由”は意外と残酷に 僕に選択を迫る」
とか、こういうモラトリアムな歌詞は、その時の当事者である学生時代の自分よりも社会人になってからのほうが身に染みる。
08 Time washed away
キーボードと和久さんの歌いだしから始まる2分20分程の短いシットリとした楽曲。
WANDSにしては初(?)の生のヴァイオリン、チェロといった弦楽器(ストリングス)が導入された曲だが、ビオラが入っていないのは一つ特徴か。
過去の恋を思い返した歌だが、歌詞が短く、2分20分ある内の後半1分程はアウトロに。
歌詞が短いが故に、歌詞の背景を膨らませ、その膨らんだイメージはアウトロのキーボード&ストリングスで聴いている側の心に、それぞれ浮かばせるのではないだろうか。
本アルバムの羽休めポイントな1曲でもある。
09 明日もし君が壊れても
曲の感想はシングル感想を参照。
何気に前の曲で弦楽器を使い、次にチェンバロを用いたこの曲と、西洋的な雰囲気で繋がっているのが良いと思ったり。
10 Still in love
杉元一生・木村真也共作によるハードロックナンバー。
「友情と名前変えても僕の心は あの日に止まったまま」
と諦めきれない失恋模様を描いた失恋ソング。
ハードだがキャッチーなメロディーは崩さず、ディストネーションの効いたギターが雰囲気を押し出している。
相変わらず、木村さんの作詞力も負けず劣らず高い。
11 Please tell me Jesus
Mi-Keのボーカリストとしても知られる宇徳敬子作曲によるハイテンションでプログレッシブなロックナンバー。
宇徳さんのソロなんかを聴いてると想像できないアグレッシブなロック調だが、元はバラードソングだったようでアレンジしていった結果、このような形に至ったという。
5期WANDSで元のバラードアレンジで再録とかしてくれたら面白そうなんだが。
そしてどういう経緯で宇徳さんの曲がWANDSに提供されたんだろうか。
キーボードのフレーズに合わせたようなエレクトロなギターフレーズ(タラララ♪タラララって部分)が圧巻。
この楽曲もドラムとベースが生音だが、ベースには当時第4期LOUDNESSのメンバーだった柴田直人(ex ANTHEM。ANTHEM解散後はBeingに所属し、作曲家としてTWINZERに提供していたことも)が参加しており、貫禄あるベースが聴ける。
ギターソロ後半の、ギターとベースのユニゾンが特にカッコいい。
和久さんによる作詞だが、字数が多く、メロディに対し字余りの如くまくし立てている。
ハイテンションな演奏にまくし立てるボーカルと色々と異彩を放っている1曲。
自分の彼女がマブなダチであるアイツと付き合ってた!冗談じゃない!という裏切り失恋ソングだが、字余り的なまくし立てるボーカルといい、俗っぽい歌詞といい、本気で「冗談じゃない!」感が伝わってくる。
ずっと彼女とマブダチが付き合っていることに「冗談じゃない」とか「愛情や友情や感情ってこんなにあっけなくたやすく壊れてしまうの」とか言いつつ「新しい出会いにかけてみようかな」「アイツはマブダチだし」と吹っ切れようとするも、最後には「ケド、今二人は“ナニ”してんのかなぁ」となってしまう男の性(さが)っぷり。
「親友(マブダチ)」とか「マジで愛しかったけど」とか、この俗っぽい言い回しが逆に良いテイストなんじゃないかと。
宇徳さんじゃまず書けないであろう歌詞である。
余談をいうと、「マブダチ」は俗語であり、もっていえば「死後」であるため、最初聴いたとき筆者は意味が分かっていなかった。
12 錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう
曲の感想はシングル感想を参照。
表記無しだが、アルバム用にミックスが変更されており、低音重視なサウンドになっている。
13 Where there's a will…
アルバムのラストを飾る静かなピアノバラード。
1番はピアノのみだが、2番が入る直前に奏でられるストリングスとアコースティックギターのタイミングが絶妙。
飾り気がなく、メンバー3人の等身大の演奏が聴ける、そんな楽曲だと思う。
決意を持っていれば、道は開ける、といったような前向きな歌詞。
今となっては
「離れることは さよならじゃない」
というフレーズが、どこかWANDSの歴史にリンクして切なく感じる。
当時のセルフライナーノーツでは「ライブの中盤あたりにこれを持ってきたい」と語っていたが・・・3期WANDSとしてのライブが実現することはなかった。
和久、杉元さんらは会報で常々「ライブをしたい」と語っていたのもあって、痛恨の極みだったのではないだろうか。