手塚治虫作品トリビュート
1998年11月26日 リリース
『ATOM KIDS〜Tribute To The King "O.T."』
収録曲
01 ワンダー3 / YOU+高木郁乃(Jungle Smile)+人見元基+難波弘之 ★
02 少年マルス / COSA NOSTRA featuring 忌野清志郎 ★
03 鉄腕アトム / 少年ナイフ ★
04 わたしはメルモ / 野宮真貴+DIMITRI FROM PARIS
05 スペースジャイアンツのテーマ / 高木完
06 ふしぎなメルモ / CIBO MATTO ★
07 Omukae de gonsu / 細野晴臣
08 カノン / 宮沢和史
09 ジャングル大帝 / BOREDOMS ★
10 名も知らぬ星 / 浅野忠信+bloodthirsty butchers ★
11 アドルフの子守り歌 / EL-MALO
12 海のトリトン / 80年代の筋肉少女帯 ★
13 リボンのマーチ / あんじ ★
14 あの日君はたった一人で / 西脇唯
15 The Astro Boy Theme Song / SEAN LENNON ★
16 永遠の物語 / ショコラ
17 僕は愚かな人類の子供だった / 佐野元春
★→主題歌カバー(筆者追記)
アーティスト表記は歌詞カードの表記に準拠した。
概要
世界に誇る、日本のマンガの神様、手塚治虫先生作品のトリビュートアルバム。手塚るみ子プロデュース。手塚治虫生誕70周年を記念して制作された。
歌詞カードの説明によると、1992年にリリースされた山下達郎『アトムの子』を手塚るみ子が聴き、音楽と漫画、畑は違えど手塚治虫の存在が脈々と息づいていたことがこの企画の端を発したとされている。
手塚作品のアニメーションの主題歌のカバーと手塚作品をモチーフに本作用に書き下ろされた新曲が混合して収録されている。
M01・M02・M03・M06・M09・M12・M13・M15が主題歌のカバー。
それ以外が新たに書き下ろされた新曲。
歌詞カードには各アーティストごとにコメントが掲載されている。
筆者的には筋肉少女帯目当てに入手したが、全体的に満足のいく内容。
最初から余談になるが、筆者は思えば手塚治虫作品とは縁が薄かった。
筆者が生まれて間もないころ、『鉄腕アトム』のリメイクが放送されていた記憶がうっすらとあるが、あまり好んでなかったし(アトムのデザインが腑に落ちなかったのは明確に記憶している)、Janne Da Arcが主題歌を担当した『ブラック・ジャック』も、ダーツの回(?)と偽ブラック・ジャックの回を物凄く憶えているんだが、怖い印象があり、見ることが少なかった。
2011年に単発で放送されたドラマ版『ブラック・ジャック』は若干見た記憶がある。連ドラ化しなかったが、パイロット版だったのか、ドラマのエンディングは続きがあるよ、って匂わせたオチだったのは覚えている。ウィキペディアで調べたが、岡田将生が主演だったようだ。
手塚治虫のマンガは学校の図書館に所蔵されており、マンガを持ち込めない、先生に見つかったら取り上げられるという学校という空間で、『はだしのゲン』や手塚治虫作品集は図書館にあるから取り上げられることもない、貴重な存在として低学年から高学年にまで愛された図書館の本、だったのは感じていたが、どうも筆者は手が伸びず。
筆者は昔からミーハー嫌いの気があったので、手塚先生といい、『ハリーポッター』とか、『ミッケ』とか『かいけつゾロリ』とか、謎に高学年の頃に流行っていった宗田理の『ぼくらのシリーズ』とかに手を出さなかった。変なプライドである。
結局、『デルトラクエスト』(これはミーハーな気がするけど)や筒井康隆・星新一、日本史にハマって司馬遼太郎を愛読していたので、手塚先生とは縁が少ない人生だったな、と思う。
手塚治虫というものに、面と向き合って触れたのは、本という形態だが、マンガではなく、『SFマガジン700』という2014年の『SFマガジン』記念アンソロジーでのエッセイであろうか。筒井康隆や星新一、小松左京先生らのエッセイと同時に掲載されており、つまりはマンガではなく、文章で手塚治虫を読み、そして本作。音楽で手塚治虫を感じるという奇妙なふれあいだ。
話を戻すが、手塚作品に関するトリビュート作品。
主題歌のカバーで原曲を知っているのはM03のみ。その為、主題歌のカバーは原曲とどう変化しているのかは不明。
ウィキペディアを参照するに、アトムを含め、主題歌カバーの作品は60年代後半に放送していたようで、そうなると筆者の親世代よりも上になる。その為、筆者の親ですら原曲を知っているか怪しい。
M01やM02のような異色のコラボレーションからラップ、テクノ、プログレなど音楽ジャンルは幅広く、どのミュージシャンも独自の解釈を存分に反映させていると思う。
だが、サウンドの根本は『鉄腕アトム』のポピュラーなイメージに沿ったような「SF」と「宇宙的(スペイシー)」な音作り。
70分以上あるボリューミーなトリビュート作品だが、聴き終えると充実感は凄い。
思えば、音楽と漫画、同じ芸術作品ながら確かに畑は違えど、アニメ化やドラマ化した際に、マンガから飛び出し動き出す映像を支えるように音楽というものもミックスされてくる。主題歌やBGMという形で。
そう考えると、畑は違えど、切磋琢磨して成長させていく関係性なのがマンガと音楽なのかなと。このトリビュート作品が誕生したのも、決して例外ではなく、必然に起こったものなのだろう。
Pickup Songs
01 ワンダー3 / YOU+高木郁乃(Jungle Smile)+人見元基+難波弘之
『W3』主題歌のカバー。
YOUとだけ表記されているので一見分かりづらいが元FAIRCHILDで今はタレント・女優として活躍している方のYOUさん。
難波弘之のスペイシーなシンセサイザーアレンジとコミカルで可愛げのある歌詞がYOU+高木郁乃の囁く、素朴な感じの歌声とが非常にマッチしている曲。
最初はミディアムに始まるんだけど、人見元基の掛け声と同時にポップスにテンポが上がっていく。
この曲最大の注目点はVOWWOW解散後、音楽業界から身を引いた人見元基が参加していることだが、人見さんはメインボーカルというより、コーラスやスキャットとサブボーカリストとして参加している。
とはいえ、YOU+高木郁乃両名のいい意味で素朴な感じの歌声に対し、ご存じ日本人離れした野太いボーカルが絡んでくるのは面白い。
人見さんファンからしたら物足りない感じがするかもしれないが、筆者としては楽しめたし、YOU・高木郁乃(Jungle Smile)・人見元基・難波弘之、どのファンも一聴してみる価値はあると思う。勿論、ポップスが好きな人でも。
個人的にはYOUさんの歌声や表現力は好みなので、もっと脚光を浴びてもいいと思う。
また、クレジットをよく見ると、ベースにはNIGHT HAWKS(X JAPANのTOSHIのソロで共演したことでも知られる)の松本慎二が参加している。
02 少年マルス / COSA NOSTRA featuring 忌野清志郎
キング・オブ・ロック忌野清志郎と渋谷系ユニット(COSA NOSTRA )という異色のコラボレーションでのカバー。
適度に渋谷系ポップで適度にロックなサウンド。とてもGOODな融合。忌野清志郎のボーカルに、鈴木桃子と小田玲子のボーカルがフックして鮮やかなで、そしてスペイシー。間奏のオシャレな感じとかはTHE渋谷系だなって。
03 鉄腕アトム / 少年ナイフ
ニルヴァーナのカート・コバーンがファンだったことで知られ、海外ミュージックシーンでも爪痕を残したガールズ・オルタナティヴロックバンド少年ナイフのカバー。
筆者が唯一、原曲を耳に記憶している曲だが、オリジナルをそのまま少年ナイフ風にカバーしました。といった感じ。この曲も、打ち込み部分はスペイシーな感じ。
歌詞カードを見て初めて知ったんだが、この曲の作詞って谷川俊太郎だったのね。手塚治虫に谷川俊太郎とは、凄い共演だ。
05 スペースジャイアンツのテーマ / 高木完
高木完による書き下ろし曲。
ラップサウンド。ラップではYOU THE ROCKが参加している。
高木完という人は初聞きで、そもそもラップの人なのかどうなのか勉強不足なのだが、ヒネリすぎず熱い衝動をそのままサウンドに表しましたって感じがした。
筆者はあまりラップソングが好きではないのだが、自然とラップのリズムが体に刻まれるような心地よさはあった。
08 カノン / 宮沢和史
THE BOOMのボーカリスト宮沢和史による書き下ろし曲。
これまたスペイシーで、暗く、深く、無重力を漂うような、宇宙の概念というか気をそのまま音に表したような、民謡音楽、インダストリアル、なんと言えばいいか。
最大限に伝えようとすると、宇宙民謡?とでもいうべきか?
ガンダムのララァの最期の場面みたいな(ガンダム知っている人にしか伝わらない)。
この暗く、深く、無重力なサウンドは逆に深すぎて恐怖感もある。ビックバンからの宇宙、生命の誕生ってこんな感じなんだろうな、ってサウンド。
THE BOOMはちょくちょく聴くものの、宮沢和史のソロは聞いたことがなかったので彼の髄に触れたような体験だった。
ZABADAKの吉良知彦のソロ作品とかが好きな人にもオススメ。
12 海のトリトン / 80年代の筋肉少女帯
筋肉少女帯による主題歌のカバー。
80年代の筋肉少女帯という名前から分かるように、橘高・本城・太田といった全盛期メンバーは参加していない。
本アルバムがリリースされた98年には、全盛期メンバーによる筋肉少女帯の活動に限界を感じ、大槻ケンヂが筋少の再編成に動いていたある種、貴重な時期の音源。
『大槻ケンヂ20周年わりと全作品』でも言及があるが、 80年代の筋肉少女帯唯一のスタジオ音源。
大槻ケンヂ・内田雄一郎・三柴理の他に石塚BERA伯広・友森昭一のツインギター。そして元すかんちの小畑ポンプがドラムで参加。小畑は、本当は筋肉少女帯に参加した経歴がないが、オーケンが「3か月だけいたことにしてくれ」と頼み込んでいたらしい(わりと全作品より)。
エディのピアノから、ドンと鳴るロックサウンドに叫ぶオーケンと『仏陀L』の頃のような筋肉少女帯らしさ全開でカバーされている。
ハードなロックなんだけど、プログレ色も漂う。
後に電車(大槻ケンヂが特撮結成後に立ち上げたバンド)のメンバー(石塚BERA伯広・小畑ポンプ)がいるのもあって電車のような昭和レトロチックな感じも。
プログレチックなギターとキーボードを聴くと、コレコレ、と筋肉少女帯好きは思わず頷いてしまう。
14 あの日君はたった一人で / 西脇唯
西脇唯による書き下ろし曲。
西脇唯というミュージシャンは初聞き。
ポップスナンバー。温もりを感じる王道ポップスでZARDの「負けないで」や岡村孝子の「夢をあきらめないで」みたいな応援、前向きになれる曲。
でも、歌詞カードのコメントにもあるように、勇敢だが、孤独や悲しみもあるんだよ、といった切なさ、でも、だからこそ人は協力し合う生き物なんだ、というポジティブな印象も感じさせる。
17 僕は愚かな人類の子供だった / 佐野元春
佐野元春による書き下ろし曲。
このトリビュート発売後、シングルカットされた模様。
CMJKがリミックスをしている。打ち込みを駆使したクラブチックな曲調で、そこに語り口調のように佐野さんが歌っている。
佐野元春が手塚治虫を敬愛している、ということはたまたま見た『ダウンタウンなう』のゲスト回で知ったが、あの回を見た後にこの曲を聴いて、なるほどな、と思った。
アトムの最期を見てわんわん泣いた、ってテレビで語っていたのだが、その理由がこの曲の歌詞、佐野さんが自分も愚かな人類の子供だったから、と気付いたからなんだろう、と。
歌詞カードに書かれているコメントが少し悲しい。